副社長の一目惚れフィアンセ
何も聞かずに部屋に通してくれた瀬名は、真っ先にエアコンをつけた。

走ってきたから余計に暑いんだろう。

部屋の中はもわっと熱い空気に、スナック菓子の匂いが充満している。

10畳間の部屋は、相変わらず散らかっていて彼らしい。

私も片づけは苦手なほうだけど、どうしたらここまで散らかるんだろう。

雑誌は散乱し、ゲーム機は裏返っていて、スナック菓子のからもビールの缶もテーブルに置きっぱなしだ。


「暑い季節なんだから、虫がわいちゃうよ?」

「いや、片づける気はあるんだけどさあ…」

クスっと笑ったら、バツが悪そうに瀬名はポリポリと頭を掻いた。

だけど、そういう瀬名らしさに今はただただ安心する。

瀬名は何も聞かずソファに隣合って座った。

「…ごめんね。飲み会とかだったんじゃないの?」

「地元の奴らとの飲み会なんていつでもできるよ。
お前が泣いてることのほうが、俺には重要だ」

この人は狙っているわけじゃないのに、こうやってますます私を泣かせるんだ。

「ごめんね」

「謝るなよ。今日はおばさんと平塚の家にも行ってたし…心配はしてたんだ」

「…でも違うの。お母さんのことじゃないの。今日は…」

「え…?」


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