副社長の一目惚れフィアンセ
パタン…

鍵が開く音もなく、ドアの音がした。

「瀬名ー入るよ」

「おう」

聞こえたのは紗耶の声だ。

いくらなんでも、鍵を開けっぱなしにしておくなんて…

こんなところも瀬名らしいけど、まさか紗耶の部屋もこんな感じじゃないだろうな。


紗耶は今夜夜勤のため、元々今日中に帰って来るつもりでいたらしい。

その前に友達の家に寄っていたんだという。

「どうしたの明里。大丈夫?」

「おい紗耶っ俺をどかすなっ」

瀬名を押しのけて私の隣に座る紗耶に、瀬名は不満げな声を漏らす。

それを聞いてクスクス笑いながら、また涙が出てくる。

ティッシュで鼻をかみ、深呼吸をして目を伏せた。

2人のおかげで気持ちが落ち着いて、ようやく冷静に言葉にできそうだ。

「…私の婚約者、お姉ちゃんの恋人だったの」

「えっ」

瀬名と紗耶が顔を見合わせた。

「彼は私に一目惚れしたんじゃない。
ただお姉ちゃんに似てたから…死んだ恋人に似てたから、私を選んだだけ。
苗字も違うし、私は彼に会ったこともなかったし…だから彼は気づかなかったの。
私が詩織の妹だって」



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