副社長の一目惚れフィアンセ
「副社長、大丈夫なの?」

社食で日替わりランチを食べながら、香澄は声を潜める。

私はコンビニで買った菓子パンだ。

「…わかんない。多分ずっと仕事してる」

あの記者会見の日、私はマンションに帰った。

いてもたってもいられず、何もできないならせめて家で待っていたいと思ったのだ。

もちろん今は婚約の話どころじゃないことはわかっているし、そんなことはどうでもよかった。

ただ、ナオがマンションに帰って来て休む時間が取れることを願った。

…だけど、一昨日の夜も昨日の夜も、ナオは帰っては来なかった。

香澄ははあっとため息を吐く。

「うちらが入社してからこんな事態初めてだもんねえ」

そういうわりにどこか他人事に見えるのは、やっぱり自分の仕事とは関係ないからなんだろう。


総務課はいつも通り平和に仕事が回っている。

時間になればお昼休憩を取り、夜になればみんな早々に帰って行く。

そのことに苛立ちすら覚える。

ナオはちゃんとご飯を食べられているんだろうか。

少しでも眠る時間はあるんだろうか。

ずっと対応に追われているんじゃないかと思うと、たいした仕事もしていない自分が情けなくなる。



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