副社長の一目惚れフィアンセ
「ナオ、大丈夫なの?
私、ナオが大変なのに何もできなくて…ごめんなさい。
婚約白紙の話だって、あんなにタイミング悪く…」

「知ってたんだ。明里が詩織の妹だって」

「え…?」

弱々しい声でナオは続ける。

「最初に見た時に、運命を感じたのは本当だ。
だけど、その時は深く考えることもできずに去ってしまった。
車に乗ってからピンときたんだ。
もしかしてあれは…明里だったんじゃないかって」

「え…私、ナオに昔会ったことなんて…」

「何度も会ってたよ。やっぱり何も覚えてないんだな」

小さく笑いながら、しゃべるのもしんどそうに、ふうっと息を吐く。

「ナオ、無理してしゃべらないで。
話なら治ってから…」

「いや、言わせてくれ。
明里が傷ついて泣いてるんじゃないかって…早く伝えたいって思ってたことなんだ」

ナオはもう一度目を閉じてふうっと息を吐き、ゆっくり続ける。

「俺は詩織と明里の顔が似てると思ったことは一度もなかった。
一緒に暮らし始めて、大人になった明里に詩織の面影を時々感じることはあったけど。
一目惚れのときは、そんなことは頭になかった。
明里がここに勤めている偶然が起こるなんて信じられないし、別人の可能性のほうが高いと思った。
だからあえて人事のリストで名前を調べることをせずに、女性社員に呼び出しをかけた。
ほんの数秒見ただけの女性だったけど、俺にはすぐにわかった。そしてその女性は、名字は違ったけど、確かに『明里』だと名乗ったんだ」

ナオは私を安心させようとしているんだろうか。

口元に笑みを作ることをやめずに、私に視線を向ける。

「本当は、俺のことをナオって呼んでたのは…詩織じゃなくて明里だったんだ。
詩織は俺のこと、直斗って呼んでいたから」



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