副社長の一目惚れフィアンセ
「お話はなんでしょう」

身を乗り出して頬杖をついた莉乃さんは不敵な笑みを浮かべる。

「婚約を解消してもらえるかしら」

「え?」

突然の言葉に戸惑ったけど、莉乃さんの表情は変わらない。

「天星製薬の今回の騒動の損失はとても大きなものよ。
副社長は何の財産もない凡人と結婚している場合じゃないの。今、政略結婚の話が持ち上がってるわ」

政略結婚…考えてみれば当然だ。

異物混入事件での、信頼の低下と金銭的な損失。

それを埋めるために、副社長がメリットのある結婚をするのは自然な流れだ。

ショックなはずなのに、素直に納得してしまっている自分がいる。

「確かに婚約披露パーティーのことはパパにさんざん咎められたわ。
だけど、今でも天星製薬との親交は変わらない。
私があなたに代わって直斗さんと結婚すれば、大きなメリットがあるでしょ?」

ふんっと鼻で笑った莉乃さんはふんぞり返って腕を組む。

「まあ私はいずれ社長夫人になれれば、天星製薬じゃなくても関係ないんだけどね」

ポロっと彼女が漏らした言葉に、困惑していた頭の中が急に熱くなる。

「莉乃さんは、直斗さんのことが好きなわけじゃないんですか?」

「まあ、顔はかっこいいから好きと言えば好きよ。
でも私はいずれ社長夫人になれればいいの。
だから、今すぐ大手企業の社長夫人になれるなら、もちろんそれに越したことはないわ」




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