副社長の一目惚れフィアンセ
マンションに帰ったら、もうナオは帰って来て、ソファで丸くなって眠っていた。

いつもよりずいぶん早い時間に帰って来ていたことにホッとした。

だけど、私の物音で起こしてしまったようだ。

ナオは静かに目を開けて、とろんと眠そうな声を漏らした。

「おかえり」

「ただいま。今日は早かったね」

「ああ。仕事も落ち着いてきたし、キリが良くてね」

ナオは伸びをしてふうっと息を吐いた。

「…ねえナオ。政略結婚の話が出てるの…?」

「…誰にそんなこと聞いたんだ」

ナオの表情が固くなり、低い声で呟く。

やっぱり間違いないんだ。

さっきは莉乃さんに啖呵を切ったけど、急に不安になる。

起き上がったナオは私の髪をすくようになでた。

「大丈夫。俺は、明里を離す気はない」

その真剣な瞳に、何の迷いも感じ取れない。

それは嬉しいことだけど、会社のことを考えると素直に喜ぶことはできない。

会社が予想外の大変な事態にみまわれたのは確かなのだ。

莉乃さんが言った『あの人』が誰なのかはわからない以上、私もその先を考えようがない。

だけど…

少なくとも、ナオが私と結婚するメリットなんて、何もないのは確かだ。




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