副社長の一目惚れフィアンセ
社長秘書の女性が、私を奥の扉へ案内する。

社長が上座のひとり掛けのソファに座っていて、向かい合った3人掛けのソファの片側にはナオが、もう片側には莉乃さんと黒岩さんが座っていた。

莉乃さんは、「お久しぶりね」としらじらしく笑う。

私はナオに促されてナオの隣に座った。

秘書であるはずの黒岩さんが、社長室で莉乃さんの隣に座っている。

一体どういうことなのか、夏川さんの言う通りわたしにもさっぱりわからない。

だけど、莉乃さんが言っていた『あの人』というのはやっぱり黒岩さんのこと…?

「役者は揃いましたね。話し合いを始めますか」

切り出したのは黒岩さんだった。

社長は俯いて頭を抱え、深いため息を吐いている。

「お前がそんな計画をしていたとは思わなかったよ、真司」

真司…?

「愛人の息子じゃなくて本妻の息子が社長の座を継ぐのは、本来当然でしょ。
だから俺が副社長になって莉乃さんと結婚する。
直斗さんは莉乃さんと結婚する気はないから、ちょうどいいじゃないか」

しゃべり方が違う。不敵な笑み。偉そうに組んでいる足。

この人は本当に黒岩さん…?

瀬名と一緒にいたときに見た男性、人違いだと思っていたけど、やっぱりあれは黒岩さんだったのかもしれない。


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