副社長の一目惚れフィアンセ
「確かに若いころは色々悪いことやってたよ。
父さんが怒るのも無理はない。
だから信頼を取り戻すために平社員として必死に働いて評価を上げ、重役の第一秘書にまで上り詰めた。
まあ、おかげで愛人の息子にへりくだることになっちゃって惨めだったけど。
そろそろ許してくれてもいいんじゃない?父さん」

社長はまた大きなため息を吐く。

「真司を役員にするつもりはなかった。
だけど、秘書としての真司の働きぶりは目を見張るものだったから、時機を見てお前に管理職の座を与えるつもりでいた」

「…管理職じゃ次期社長にはなれないでしょ、父さん」

淡々とした真司さんの声は明らかに怒りを含んでいる。

「どうしようか考えあぐねていたところに、今回の異物混入事件。
会社の信頼と金銭的損失をどうにかするために、政略結婚の話が持ち上がるのは必然。
直斗さんは明里さん以外と結婚する気はないだろうから、俺が副社長になって莉乃さんと結婚。自然な流れだ」

社長は眉間に大きなしわを刻んで押し黙ったけど、その真意は読めない。



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