副社長の一目惚れフィアンセ
合図を受けるように、お父さんは緊張した面持ちで頭を下げる。

「水島社長、直斗さん。明里がお世話になっております。明里の父の木村孝と申します。
婚約の話は明里から聞いておりましたが、たまたま昨夜、お酒の席で樺沢さんから聞いたのです。
今回、御社で予想外の損失が出たことで、直斗さんと明里の婚約破棄と、直斗さんの政略結婚の話が出ていると…
だけど、直斗さんと明里はとても愛し合っているのだと。
それで、樺沢さんに無理を言ってお願いしてお伺いした次第です。
今日はこれを明里に渡しに来ました」

お父さんがカバンから取り出したのは通帳だった。

別々の銀行の口座のものが2つ。受け取ったその通帳の名義は両方とも私になっている。

なんで今わざわざこれを?と疑問に思いながら、なにげなく中身を見て鳥肌が立った。

桁が通常の金額じゃない。
まるでおもちゃの通帳なのかと思ってしまうくらいだ。

「お、お父さん。なにこれ」

「詩織が亡くなった時に受け取ったお金、詩織の学資保険、生命保険、全て入っている。
贈与税の関係もあって、少しずつ明里の口座に移していったから、時間がかかって申し訳なかった。
社長も直斗さんもご覧になってください」

通帳をナオに手渡すと社長が身を乗り出してそれを見て、その金額に2人とも息を呑んだ。


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