副社長の一目惚れフィアンセ
― 直斗side —


詩織が置いて行った日記帳を見つけたのは、大学に受かって一人暮らしをするために部屋の中を片づけた時だった。

置いて行ったというよりも、隠していたというほうが正しいと思う。

本棚に並んだ本の隙間に、埋もれるように入っていたのだ。

なんとなく俺に読んで欲しくて置いてあった気がしたから、詩織の親御さんに返そうとは思わなかった。

だけどまだ中身を開けるほど傷は癒えてはいなくて。


ちゃんと読もうと決心したのは、大学を卒業してしばらく経ってからだ。

学生時代に住んでいたアパートから、会社までは決して遠くない。

だから当然電車で通うつもりでいたけど、「お前は後継ぎなんだから、それなりの身なりでいなければならない」などと社長に言われ、都心の高層マンションに住む羽目になった。

一生縁がないと思っていた高級車。

百万を超えるという腕時計。

オーダーメイドのスーツ。

周りはみんな俺にへりくだる。俺よりも年上の人ばかりなのに。


突然生活がガラリと変わって戸惑いばかりの俺は、ホームシックのように、なんの肩書きもなく笑って過ごしていた日々が恋しくなった。

そこで、久しぶりに詩織の日記帳を棚の奥から引っ張り出したのだ。


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