副社長の一目惚れフィアンセ
epilogue
ナオの政略結婚の話はなくなり、私はナオのそばにい続けられることになった。

お姉ちゃんが遺してくれたお金は、庶民にとっては大きな金額ではあるけど、会社のピンチを救えるほどの大金じゃない。

お父さんの言う通り、政略結婚をしたほうがずっとメリットは大きいに決まっている。

だけど、お姉ちゃんとお父さんの思いは、社長の心をも動かしたのだ。

お姉ちゃんのお金はこれから家族が増えた時のためにとっておくように、と社長は言ってくれた。



婚約から1年の月日が流れた。


「明里、明日の式にはお母さん来られるんだろう?」

仕事を早く切り上げて帰ってきたナオは、上着を脱ぎながら私に問いかける。

「うん。叔父さんが連れてきてくれるって言ってた」

ナオは「そうか」と微笑んだ。

お母さんは精神的なバランスを取り戻すため、しばらく入院していた。

アルコールのせいで肝臓にも疾患を抱えていたらしい。

時間をかけて少しずつ自分を取り戻していったのだと、叔父さんから話を聞いていた。

『詩織』じゃなくて『明里』の話をするようになったのだと。

『明里の結婚式が楽しみだ』と。

本当は、肝臓の手術をしてあまり無理をできる状態じゃないんだそうだ。

だけど、お母さんがどうしても行きたいというから、叔父さんが車椅子で連れてくると言っていた。

お母さんに会うのは久しぶりだ。

ドキドキするけど、喜んでくれるだろうか。

『明里』と呼んで祝福してくれるだろうか。



< 196 / 203 >

この作品をシェア

pagetop