副社長の一目惚れフィアンセ
「パパー!はやく!」

「ちょっと待ってくれ…パパもう疲れたよ」

ナオは息を切らしてフラフラしながら丘を登っていく。

久しぶりの休日なのに、笑理(えみり)に振り回されっぱなしだ。

3歳児の体力は半端じゃない。

身重の私は、お昼のお弁当が入ったバスケットを持ってゆっくりと丘を登る。

「ママ!パパ、えみりより走るのおそいんだよ!男の子なのに!」

笑理は大袈裟に頬を膨らませてご立腹の様子。

「仕方ないよ。パパお仕事で疲れてるんだから」

座り込んでげんなりしているナオを見て、私は苦笑い。

「これ、もうひとり生まれたらどうなるんだろうな」

先行き不安そうにため息を吐くナオ。

大きなお腹をなでながら、昨日の妊婦健診で言われたことを打ち明けてみる。

「次も女の子みたいだよ?」

目を丸くしたナオは、嬉しそうに微笑んだ。

「…そっか。やんちゃな姉妹になりそうだな」



「パパー!ママー!」

「「はーい」」

いつのまにか笑理はまた場所を移動している。


「ねえママ!シロツメクサの花かんむり作ってー!」

「えっ?」

思わずナオと顔を見合わせた。

花かんむりを結婚式の日につけたことも、お姉ちゃんとの思い出も、笑理に話したことはない。

まだ3歳になったばかりで幼稚園にも入っていないのに、そんな言葉を知ってるなんて…


ナオが私の肩を抱き寄せ、私はコツンとナオの肩に頭を預けた。

ナオもきっと、私と同じことを思ったんだろう。

「…大事に育ててあげなきゃね」

「そうだな」


背を向けてしゃがみこみ、花を摘んでいる様子の笑理。

立ち上がって振り返った笑理が、両手いっぱいの花を持って誇らしげにはにかむ。


それは、お姉ちゃんの笑顔によく似ている気がした。

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