副社長の一目惚れフィアンセ
「明里、婚約者に副社長呼ばわりはないだろう?」

宝石店でのことを言っているんだというのはすぐにわかったけど、婚約者だからって突然名前呼ばわりはおこがましいと思ったのだ。

「じゃあ、直斗さん…?」

恐る恐る問いかけると、彼は何かに迷う様子で視線を彷徨わせた。

「…ナオって呼んで」

少し間を置いて、彼は言った。


『ナオ』


どうしてだろう。また一瞬既視感が頭の中を走った気がした。

だけど、深く考える前に彼は続ける。

「もちろん人前では直斗さんでいい。でも2人の時はそう呼んでほしい」

「…ナオ」

照れくさくて呟くように小さく言うと、彼はなぜか切なげに微笑んだ。

一瞬その細められた目が光って揺れた気がしたけど、確認する前に彼は目を伏せた。



< 41 / 203 >

この作品をシェア

pagetop