副社長の一目惚れフィアンセ
週末。仕事が早く終わり、少し早めに待ち合わせのカフェに着いてしまった私は、先にコーヒーを頼んで飲み始めていた。

ドアを開けてすぐに私を見つけた瀬名は、店員さんの「いらっしゃいませ」の声を遮って

「ごめん。遅くなったっ」

やたらと大きな声で駆けてきた。

店員のことは完全に無視している…いや、悪気はないのだけど、店員の存在が見えていないくらいの勢いだ。

「こちらメニュー…」

「アメリカンひとつ!」

メニューを持ってきた店員さんに人差し指を一本立て、店員は少し苛立った顔を無理やり笑顔にして「かしこまりました」と去っていった。

慌ただしいところはずっと変わらず瀬名らしいな、と思わずくすりと笑ってしまう。

息を整えた瀬名は大きなため息を吐き、じとっと私を睨んだ。

「すげーびっくりしたんだけど」

「うん。ここ数日のうちに色々あってね」

「相手、副社長なんだろ?なんでいきなりそうなるんだよ」

「私が聞きたいよ」

「いや、俺が聞きたいんだって」

本当は、瀬名にはカフェに着いてから話をしようと思っていた。

だけど、瀬名はとにかく落ち着きがない。

双子である紗耶もそうなんだけど、瀬名はそれ以上だ。

驚きすぎてコーヒーをひっくり返しかねないと思って、結局事前にメッセージで伝えておいたのだ。




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