副社長の一目惚れフィアンセ
「——それでは、これで終了になりますんで。サインをいただけますか」

「はい。ありがとうございました」

業者のお兄さんたちは、キャップを取って丁寧に頭を下げて去って行く。


婚前同居の提案が出てから2週間後、ナオは休日出勤で不在だけど、大安ということで引っ越しが行われた。

大安だとか仏滅だとか、そういうことに関心はなかったけど、業者が見積もりに来たときに『引っ越すなら大安がいいですよ』と言ったから、そうしてもらったのだ。

流されやすい私。よく考えれば、大安の引っ越しは普通の日より費用が高いかもしれないのに。

それもナオのカードでお支払いだから、彼に申し訳なくなる。

ナオは笑って「気にしすぎだぞ」と言っていたけど。


ナオが使っていなかった一室に、私の荷物は全部詰め込まれた。

あらためて部屋を見渡し、うんざりした気持ちになる。

荷解きまでしてもらっても、そこから先の片づけは自分でしなければならない。

今までの1DK8畳間のアパートにこれだけの荷物があったのかと考えると、ある意味恐ろしいことだ。

だけど、ここにはウォークインクローゼットもある。

荷物の大半を占めていた洋服は、その多くをハンガーにかけて保管しておけそうだ。

さすがに今のこの部屋の状態はナオに見せられないと思い、急いで買い物に出た。

家具屋に行って安いラグや収納ボックスを揃え、100円ショップで色々買い足し、黙々と片づけること数時間。

休日は引っ越し作業で全部終わってしまった。

と言っても、漫画を読み返していたがために余計な時間を食ってしまったのだけど。


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