副社長の一目惚れフィアンセ
20時、玄関ドアの解錠の音がした。

扉が開いて、休日出勤だったナオは疲れている様子もなくリビングへ入って来る。

「ただいま」

「お帰りなさい」

ソファに座っていた私が立ち上がると同時に、ナオの腕に包まれる。

「ナオ…?」

「…癒されるな」

子どものように甘えた声が降ってきて、愛おしい気持ちになる。

私も応えるようにナオの背中に腕を回した。

きっと鼓動は伝わってしまっているだろう。

私にもちゃんと伝わっている。ナオの少し早い鼓動。

「いいな。帰って来て、お帰りって言ってくれる人がいるのは」

「私も嬉しい。ただいまって帰って来てくれる人がいるの」

しばらく抱きしめ合ったあと、ゆっくりとナオは手を離した。

「ご飯は済ませてきたの?作ってみたんだけど…」

「ああ、もらうよ。実はそのつもりで食べずに帰ってきたから」

ネクタイを緩めながらナオはいたずらに笑う。

「あまり期待しないでね。ナオが普段食べてるような高級な料理とは全然違うから」

「大丈夫だよ。明里の手料理というだけで俺は嬉しいんだ」

慌てて言ったものの、ナオはまたさらっと甘い言葉をくれた。


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