副社長の一目惚れフィアンセ
「そういえば婚約パーティーは主に取引先へのお披露目になるからお母さんは呼べないんだけど、いいか?
挙式は、取引先相手の大きなものの他に、親族や友人用で別にするから」

「挙式も呼ばなくていいです。あの人は…私には興味ないですから」

曖昧に笑って食べ進める私に、ナオは箸を止めてこちらを見る。

「興味がない?」

「母の興味は、出来のいい姉だけに向いているんです。
私はダメな人間で、母には好かれていないんです」

暗くならないよう、平然を装って答えたつもりだ。

言葉はそれ以上出てこなかったけど、今まで人に言えなかったことを、ナオには頑張って伝えられたほうだと思う。

寂しい。悲しい。愛されたい。

だけど、私はダメ人間。いつまでも母親に認められない人間。

こういう悲しみはもう割り切るしかないと思っていたはずなのに、言葉にすると少し鼻の奥がツンとする。


箸をおいたナオの手が、手を伸ばして私の頭をなでた。

「辛い思いをしてきたのか。
だけど、明里はダメなんかじゃない。俺が選んだ女性だ。大丈夫」

今度はナオのやさしさに涙が出そうになって、明るく振舞って話題を変えた。

「ナオのお母さまのお墓はどちらに?挨拶をしに行かなきゃ」

「母の遺言で、祖父母の実家のある山口の墓に入っているんだ。機会があれば墓参りに行って明里を紹介したいけど、当分難しいだろうな」

「そうなの…」

確かにナオの多忙はスケジュールでは難しいかもしれない。

だけど、たとえ離れた場所にいても、きっとナオのお母さんはナオのことを見守ってくれているんだろう。

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