副社長の一目惚れフィアンセ
ベッドに横になって、ナオは私の髪の毛をゆっくりととく。

このシチュエーションで先に進まないほうがおかしいのはわかっているから、ドキドキしながら口を開いた。

「…ねえ、ナオ」

「ん?」

「男の人は、好きじゃない女の人とも、できるんでしょう?」

きょとんとしたナオが私の顔をじっと覗き込む。

一般論を話すようにさりげなく言ったつもりだったけど、そううまくはいかなかったようだ。

「信じるのが怖いのか?」

ナオの問いかけにギクリとしながらも、布団を口元まで引っ張りあげて隠したまま、小さく頷いた。

「でもっナオを信じてないわけじゃないの。
これは、私の気持ちの問題で…」

ナオは柔和に笑みを浮かべる。

「無理しなくていい。
明里の気持ちの準備ができるまでは、少しでも躊躇いがあるうちは、キス以上のことはしない。
このまま隣で明里を感じて眠るだけでも、俺は幸せだ」

気が緩んでじわりと滲んだ涙は、ナオには見られていた。

目元をそっと拭って、ナオは短いキスをくれる。

「急がなくていいんだ。まだまだ先は長い。ゆっくりいこう」

「…ありがとう、ナオ」

声が潤む私に、ナオはやさしく微笑みかけた。
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