副社長の一目惚れフィアンセ
花瓶には、ここに来る途中で買ったお花を挿した。

なかなか火がつかない線香に苦戦しながら、やっと煙のあがった線香を横置きにし、墓前で手を合わせた。

静かに目を閉じるけど、お姉ちゃんの姿はもう朧げだ。



お姉ちゃん、私婚約したんだよ。

喜んでくれるかな。

相手はね、すごく素敵な人なんだよ。

こんな私を、ダメじゃないって言ってくれるんだよ。

…だけどまだわからないよね。

一緒に暮らし始めたばかりなんだ。

これからダメなところがたくさんバレていって、もしかしたら…



そこまで考えて、こんな報告じゃお姉ちゃんも暗くなるばかりだと思ってやめた。

この石の中にお姉ちゃんがいるという実感はない。

だけど、どこかから見てくれているんだろうか。

だとしたら、ダメなところばかり見られて笑われているかもしれない。


「…また来るね、お姉ちゃん」

一言呟いて、私は墓地を後にした。



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