副社長の一目惚れフィアンセ
お父さんと会うのは数年ぶりだ。

たまたま紗耶たちの家に来たときに一度会ったきり。

その時お父さんは新しい奥さんと幼い子どもたちと一緒に出掛けるところだったけど、奥さんは嫌な顔一つせず私に頭を下げてくれた。


お父さんは最初、私を引き取ろうとしてくれていたのだ。

だけど、それを私は拒んだ。

新しい奥さんとの新生活を邪魔するわけにはいかないし、お母さんを放っておけなかった。

引っ越すときに私に何度も謝って泣いていたお父さんを、恨むことなんかできるわけがなかった。


「母さんは、元気か？」

「元気だよ。でも、あのまんま」

「…そうか。ごめんな。全部明里に押し付けてしまったな」

お父さんの表情が翳り、心配そうに眉を寄せた。

「もう私も一人暮らししてるから、平気だよ」

お父さんは何も悪くない。

お父さんが今幸せに暮らしているなら、私はそれでじゅうぶん満足だ。

あのまま３人で暮らし続けたところで、きっと誰も幸せでいられないままだっただろうから。


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