副社長の一目惚れフィアンセ

「そうだ、お父さん。私婚約したの」

左手の甲を顔の横まであげて、いたずらに笑みを浮かべてみせた。

今まで見たことがないくらい目を見開いたお父さんは、すぐに微笑んでくれて嬉しそうに声を上げた。

「そうか。おめでとう！相手はどんな人なんだ？」

「ウチの会社の副社長」

お父さんは微笑んでいた口元をそのままに、目を点にした。


「…今日はエイプリルフールじゃないぞ？」

「ホントだってば」

「お前は天星製薬だったな。そこの副社長か？」

「そうそう」

お父さんは腕を組んで、自分を落ち着かせるかのように深いため息を吐く。

おかしなリアクションに思わず笑ってしまうけど、お父さん自身はこのありえない事態を納得するために必死なようだ。

そのあと少し雑談をし、手を振ってお父さんと別れた。