副社長の一目惚れフィアンセ
ケトルを用意してくれていた紗耶は、すぐに温かいコーヒーを二つ作った。

「よかったね」

コーヒーに入れたミルクをクルクルかき混ぜ、それを見つめたまま紗耶は小さく言う。

「お嫁に行くんだから、これを機におばさんとの距離感もほどよく離れるといいね」

「うん、そうだね」

「あ、でも孫が生まれたらおばさんも喜んで会いに来ちゃうか」

「あーそうだねえ。で『ママみたいにならないようにするのよ』っていうんだろうね」

苦笑いをしたら、んー想像つくなあと紗耶は顔をしかめた。

…そうか。孫か。それはいずれ悩みの種になるかもしれない。


バタンっと玄関の大きな音がして、忙しなく階段を上って来る音がした。

「あー来たね」

紗耶が面倒くさそうに顔をくしゃっと歪めた瞬間、勢いよく部屋のドアが開いた。

「ちょっとー、あんたノックくらいしなさいよ」

「悪い悪い」

「瀬名、危ないよ?階段で転んだら大変」

「大丈夫だって」

子供じゃあるまいし、風を切って全力で走ってきたんだろう。

肩で息をしている瀬名の髪型はボサボサで、せっかくのいい男が台無しだ。



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