副社長の一目惚れフィアンセ
5.時間切れのシンデレラ
梅雨明けが発表された、7月半ば。

できれば一生来ないでほしかったこの日。

今日は不安の種だった婚約披露パーティーが開催されるのだ。

日が近くなるにつれて私の憂鬱はどんどん大きくなっていき、最後は胃がキリキリと痛んで胃薬を飲むほどだった。

そんな私をナオはとても心配していたけど、当然パーティーを中止にすることはできない。

もちろん今日もばっちり胃薬は飲んできてある。

最近姿を見せないと思っていた黒岩さんは、これの準備に追われていたようだ。

少し疲れが見えるけど、黒岩さんはいつも通り紳士的。

この前瀬名と一緒にいた時に見たのは、やっぱり別人だったんだな。

黒岩さんはあんなガラの悪いひとじゃない。


黒岩さんに案内され、あらかじめ選んであったドレスに身を包み、高級そうなヘアサロンでヘアメイクを済ませた。

鏡を見て呆然とした。

…これは誰だろう。

女は化粧で化ける生き物だ。それは知っている。だけど、化けすぎじゃないか?

詐欺もいいところだ。

外で待っていた車の後部座席にはすでにナオが乗り込んでいて、私は黒岩さんのエスコートでナオの隣に座った。

運転手がエンジンをつけ、車は静かに走り出す。

ナオはじーっと私を見つめ、私は恥ずかしくて顔をそらした。

厚化粧のせいか、どうも顔に違和感があって余計に恥ずかしい。

「…こっち向いて」

少しずつ顔を向けたら、ナオは髪をツーブロックにセットされていて、服装も光沢のあるグレーのフォーマルスーツ。

いつもと印象がまるで違ってドキッと胸が高鳴った。

ナオの目にも私はそう映っているんだろう。

アップスタイルになっている髪にそっと触れ、

「きれいだよ」

と照れくさそうに微笑んだ。

胸を撃ち抜かれて顔を火照らせながら、パーティー会場のあるライアンホテルへ向かった。


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