副社長の一目惚れフィアンセ
キャッチボールくらい余裕でできそうな広いエントランス。

ロビーに入ってすぐに目につく大きくシャンデリアは、数千万…もしかしたら数億にものぼるものかもしれない。

一体何百kgあるんだろう。落ちてきたら即死だな。

かの名作『オペラ座の怪人』で、シャンデリアが落ちてくるシーンがあったことを思い出して妙に恐ろしくなった。

婚約披露というめでたい席なのに、そんな縁起でもないことを考えながら歩き進んだら、一番奥に大きな観音開きの扉の部屋があった。


『天星製薬 副社長 水嶋直斗様 
婚約披露パーティー会場』


確かにそう書かれている立て看板を前に、卒倒してしまいそうになる。

「行くよ」とナオは仕事モードの少し低い声で呟き、それが余計に私の緊張を煽る。

ごくりと唾をのんでうなづいた。

ホテルの従業員がゆっくりとその重い扉を開き、白い世界に少し目が眩んだ。



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