副社長の一目惚れフィアンセ
「やあ直斗くん!」

「飯田社長!本日はありがとうございます」

飯田社長と呼ばれたその人の元へ向かうため、ナオが少し歩くペースをあげたとき、私はドレスの裾につんのめった。

まずい、と思った瞬間にはもう遅く、派手に床に倒れこんだ。

「明里!」

大理石の床はとても固く、膝と肘が痛む。

だけど痛みなんてどうでもいい。

それよりもただただ恥ずかしい。きっと私の顔は今真っ赤だ。

こんな場で転んでしまうなんて、ナオにも恥ずかしい思いをさせてしまう。

「大丈夫か。どこか痛いところは?」

「いえ、大丈夫です」

しゃがんで覗き込み小声で問いかけるナオに、一生懸命笑顔を作った。

ざわめく周りの声が、余計に私を惨めな気持ちにさせる。

ナオに申し訳なくて涙が出そうになった時、身体が浮いたと思ったら、ナオにふわりと抱き上げられていた。

まるで父親が子供を抱き上げるように、私の目線がナオよりも高い位置にある。

「大丈夫ですか?姫」

「は、はい」

それを見たご婦人たちから、素敵ねえと黄色い声が聞こえ、私はゆっくりと床に降ろされた。

周りを和やかにするナオの機転に感動する。

結果的に、私たちの仲の良さを周りに見せつけるパフォーマンスのようになったのだ。



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