副社長の一目惚れフィアンセ
「どこか痛いところが出てきたらすぐに言って」

ナオは声を潜め、私はまたナオの差し出した腕に手を添えてゆっくりと歩き出した。

さっきから迷惑をかけてばかりだ。

もう少し婚約者らしくしていないと…


「大丈夫かい?」

「ドレスじゃ歩きずらいだろうしなあ」

「い、いえ。慣れないもので…」

フォローしてくれるやさしいお客様方にニコッと笑ってみせる。

「直斗くん良かったじゃないか」

「ありがとうございます」

「おめでとう。転んだところはもう痛くない?お怪我は?」

「あ…はい。大丈夫です。ありがとうございます」

貫禄のある方々と対等にしゃべるナオ。緊張してまともに話もできない私。

ナオは元々は庶民だったはずだけど、副社長として仕事をする中で、こういう場にも完全に慣れてしまったということなのかな。

ナオのそばにいるためには、私もこの世界に早く慣れなければいけない。

私は副社長夫人になる身なんだから。

今日はその第一歩。怯んではいられない。

自分の中で決意を新たにしたとき、頭の上からポタポタと何かが降って来た。



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