副社長の一目惚れフィアンセ
甘酸っぱいワインの香りにクラッとした。

振り返れば、若い女性が立っている。

私よりもずいぶん背の高い…いや、ピンヒールが高すぎてそう見えるのかもしれない。

真っ赤なドレスに真っ赤なルージュ。はっきりした二重の整った顔立ち。

茶髪をアップヘアにまとめた彼女の手には、からのワイングラスが握られている。

「無様ね。いい気味」

私を見下すようにふんっと鼻で笑って、グラスを床に叩きつけた。

グラスの割れる音と同時にご婦人たちの小さな悲鳴が沸き、ナオが振り返った。

「明里!?」

滴り続けるワインの香りにクラクラする。

何が起きているんだろう。

さっぱり現実味がなく、悪夢を見ているような気持ちになる。

私をかばうように、ナオの背中が視界に映った。

「莉乃(りの)さん。僕の婚約者に何をしたんです!」

「騙されてるのよ直斗さん!なんでこんな女がいいの?
ろくにしゃべれない、転んで直斗さんに恥をかかせる、何にもできない凡人じゃない!」

呂律がうまく回っていない。そうとう酔っているのは見てとれる。

「莉乃さん、いくらあなたでもそれ以上言ったら許しません。
明里は僕にとって誰よりも大切な女性です」

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