冷酷な騎士団長が手放してくれません
美騎士と伯爵令嬢
◆
ロイセン王国の辺境に、リルべと名付けられた地方がある。
その領土一帯を治めるアンザム辺境伯の邸では、今朝も清らかな女の声が響いていた。
「リアム? リアムはどこなの?」
「お嬢様、リアムは今訓練中です。お勉強がまだ残っていますから、お部屋にお戻りください」
朱色の絨毯を敷き詰めた廊下を行く彼女の名前は、ソフィア・ローレン。父であるアンザム卿は、ロイセン王に信頼を置かれ伯爵よりも格式高い辺境伯の称号を与えられたアンザム家の三代目当主にあたる。
隣でソフィアを引き留めているのは、侍女のアーニャだった。アーニャは今日も、心の中でため息を吐く。
腰まで垂れた蜂蜜色の髪に、陶磁器のように白い肌、温もりを閉じ込めたブラウンの瞳。今年で十七になるソフィアは、見目麗しい美女に成長した。奥ゆかしい雰囲気も手伝って、彼女をモデルにしたがる画家はあとを絶たない。
だが実際、ソフィアの性格は奥ゆかしさからはかけ離れていた。
語学にピアノ、テーブルマナーに詩の朗読。社交界で花開くために施される日々の教養に飽きると、後先考えずに逃げ出す癖があるのだ。
ロイセン王国の辺境に、リルべと名付けられた地方がある。
その領土一帯を治めるアンザム辺境伯の邸では、今朝も清らかな女の声が響いていた。
「リアム? リアムはどこなの?」
「お嬢様、リアムは今訓練中です。お勉強がまだ残っていますから、お部屋にお戻りください」
朱色の絨毯を敷き詰めた廊下を行く彼女の名前は、ソフィア・ローレン。父であるアンザム卿は、ロイセン王に信頼を置かれ伯爵よりも格式高い辺境伯の称号を与えられたアンザム家の三代目当主にあたる。
隣でソフィアを引き留めているのは、侍女のアーニャだった。アーニャは今日も、心の中でため息を吐く。
腰まで垂れた蜂蜜色の髪に、陶磁器のように白い肌、温もりを閉じ込めたブラウンの瞳。今年で十七になるソフィアは、見目麗しい美女に成長した。奥ゆかしい雰囲気も手伝って、彼女をモデルにしたがる画家はあとを絶たない。
だが実際、ソフィアの性格は奥ゆかしさからはかけ離れていた。
語学にピアノ、テーブルマナーに詩の朗読。社交界で花開くために施される日々の教養に飽きると、後先考えずに逃げ出す癖があるのだ。
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