冷酷な騎士団長が手放してくれません
虚を突かれたように、ニールが戸惑いの声を上げた。


「どうした?」


「すみません、つい……」


右手を左手で握り締めながら、どうしてニールを拒絶するような行動を取ってしまったのだろうと、ソフィアは後悔した。


ソフィアは、ニールのものなのだ。間もなくニールと結婚し、一生を添い遂げる。身体も、心も彼に委ねなければならない。それなのに、彼の口づけを拒むなど、あってはならないことだ。


胸の内で葛藤するソフィアを、ニールはしばらくの間思慮深い瞳で見つめていた。


だが、すぐに彼特有の余裕に満ちた表情を見せる。


「悪かった。君の美しさに耐え切れず、つい焦ってしまった俺のせいだ」


「そんな、めっそうもございません……」







どうしてこの人は、こんなにも優しいのだろう? ニールの優しさを肌で感じるたびに、ソフィアは胸が張り裂けそうなほど苦しくなる。彼の想いに答えたいのに、どうすればいいのか分からない。


人は、どうやったら恋に堕ちるのだろう? 兄に渡された本のように、どうやったら体の隅々まで相手が欲しいと望むようになるのだろう?


ソフィアには、まだそれが分からない。





ニールとの間に、奇妙な沈黙が流れる。居心地の悪さを断ち切ったのは、「殿下」と呼ぶ彼の側近の声だった。


たしか、アダムという名の男だ。ニールの背後に近寄り、アダムは何やら耳打ちしている。


「そうか、来られたか」


軽く相槌を打つと、ニールは今までの気まずい空気が嘘のような、おおらかな微笑を浮かべた。


「ソフィア。君に会わせたかった客人が、どうやら到着したようだ」
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