冷酷な騎士団長が手放してくれません


夜会など、一生好きになれないと思っていた。


愛想を振りまき他人に接触し、様子を見る。相手がどんな人間かを見極め、こちらの出方を考える。


ニールにとって、夜会は戦いだ。ここで得た交友関係をどう利用し、自国の利益に繋げるか。いわば、そういう場に過ぎない。





だが、今夜は違った。


ニールの隣でしとやかに歩んでいるソフィアが、彼の世界を塗り替えていく。


細い腰に手を添え、微笑みかければ微笑を返されるたび、気持ちが晴れやかになる。


薄桃色の唇から言葉が零れ、微かな吐息を感じるたび、幸福に包まれる。


濃紺のドレスの襟元から伸びた、白いうなじが視界に入るたび、どうしようもなく胸の奥が疼く。






自分が、こんなにも一人の女に執着できる人間だとは思っていなかった。


恋よりも文学。結婚よりも政務。


そんな人生を歩んできたし、おそらくこの先もそうなのだろうと思っていた。


だがあの満月の夜の晩餐会で、バルコニーに佇む彼女と出会ってから、少しずつニールは変わっていった。





初めは、ソフィアにもう一度会いたいと思った。


次に、もっと彼女のことを知りたいと思った。


そして、自分のものにしたいという欲望にかられた。







「ソフィア、疲れてはいないか?」


「大丈夫です、殿下」


「無理をするなよ。しんどくなったら、遠慮なく言え」


「ありがとうございます」
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