冷酷な騎士団長が手放してくれません
着飾った人々で溢れる人込みの中にいても、ソフィアは水面に花開く蓮のように、淡く光って見えた。


凛とした佇まいに、しなやかな歩き方。


前を見据えるブラウンの瞳は一見して穏やかだが、遠目から見ても奥に知性を秘めているのが分かる。





その時、入口にいる護衛の姿が、ニールの視界に入った。


太陽のように輝く金色の髪を持つ、若い男。ソフィアの護衛として、ロイセン王国の辺境地リルべからやって来た、リアムという名の騎士だ。


リアムは、息を呑むほどの美青年だった。滑らかな肌に、整った目鼻立ち。やや鋭いブルーの瞳は、目を奪われずにはいられないほどに印象的だ。


見た目だけでない。リアムは、身のこなしや空気感すら特別だった。些細な仕草や目線の動きでさえも、華麗で人目を引く。初めて目にした時、その存在感にニールは驚かされた。





召使いが持って来たグラスワインに口をつけながら、ニールはソフィアの姿を探した。


ソフィアは今、ニールの母親であるマルガリータ公爵夫人の隣で伯爵夫人と会話をしていた。


ソフィアとリアムの間には、二組のゲストが立ち話に興じれるほどの距離がある。決して、近い距離ではない。


ソフィアはリアムに背を向け伯爵夫人を見ているし、リアムも真っすぐ前を見据えている。






(それなのに、どうして……)


ニールは、ぐいっとワインを煽った。


距離があろうとも、視線を合わせなくとも、あの二人に繋がりを感じるのは何故だろう?


まるで見えない透明な糸が二人を結び付けているかのように、互いに意識しているのを感じる。


あの男の存在は、ニールの不安を煽る。
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