冷酷な騎士団長が手放してくれません
目が覚めると、部屋は真っ暗だった。


火を灯していたはずの、ランプが消えている。バルコニーから差し込む微かな月の光だけが、ぼんやりと辺りを映し出していた。


どれくらい、眠っていたのだろう? 大広間から響いていた人々の喧騒は消え、不気味なほどの静寂が辺りを支配していた。


数刻前のショックでいまだに体が重だるいが、ソフィアはどうにかベッドに身を起こす。ネグリジェではなく、侍女に着せられた簡素な白のドレス姿のままだ。





「起きたか」


闇間から突如聞こえた声に、ソフィアはビクッと肩を揺らした。ベッドサイドにニールが腰かけ、じっとこちらに視線を向けている。


「殿下、いらっしゃったのですか……」


気配がなかったから、気づかなかった。驚きでドクドクと鳴る胸をおさえ、ソフィアはニールと向き合った。


ニールは、いつもと様子が違った。


いつ何時でも余裕の笑みを携えていた瞳に、色がない。どちらかというと冷たい視線に、ソフィアはいたたまれなくなる。






(殿下は、きっと私を軽蔑なさっているのだわ)


晩餐会中に、あのような醜態を晒した令嬢がかつていただろうか。ソフィアの悪評は、当然ニールの身にも悪害をもたらす。婚約者にはそぐわないと見放されても、おかしくはない。


「殿下……。殿下とのダンス中にあのようなことになり、申し訳ございませんでした」


ソフィアは俯き、必死に言葉を探した。


今なら分かる。あれは、おそらくソフィアをニールの婚約者の立場から引きずり下ろしたがっているリンデル嬢の陰謀だろう。だが、今更そんなことを暴いたところでどうにもならないと思った。ソフィアがニールに恥をかかせた事実は、拭えない。


「……何に謝っている?」


ソフィアの心の傷をえぐるように、ニールは容赦のない言葉を浴びせてくる。


それは、とソフィアは震え声を出した。


「あんな醜い姿を、お客様の前でさらけ出してしまったことでございます……」


行き場のない羞恥心が込み上げてきて、言葉が続かない。


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