冷酷な騎士団長が手放してくれません
秘めた想い


あの夜会での事件の余波は、その後も続いた。


ソフィアが城内を歩けば、あらゆるところから視線を感じた。もちろん、夜会に参加した貴族以外は事件の詳細は知らないだろう。


だが、噂は根も葉もない尾ひれを付けて口伝いに広がり、城内を行き来する者の中にも浸透しているようだった。


気の毒そうな目線や好奇の瞳が、平常を保とうと気張るソフィアに容赦なく注がれる。


一方で、ニールやマルガリータ公爵夫人は、あの出来事については一切触れようとはしなかった。ソフィアを疎んじる様子も、憐れむ様子もない。


翌日から何事もなかったかのように振舞われることは、一見して有難いようだが、ソフィアの心にモヤモヤを残した。






だが、夜会が明けて一週間後。思いもかけない展開が、ソフィアを待ち受けていた。


秋晴れの、涼やかなその日。ソフィアは、ニールから応接室に来るようにと言付かる。


侍女を侍らせ行ってみれば、扉の前に待機していたアダムが「内々のご相談ですので、お一人でお入りください」と侍女の入室を拒んだ。


ソフィアは、不審に思いつつも一人で応接室に入る。


この部屋に入るのは、文学サロンの日以来だ。四方の壁が本でぎっしり埋め尽くされたこの部屋は、ニールが書類仕事などを担う場所でもある。






カーテンを閉め切った部屋の中は、薄暗かった。楕円形のテーブルの向こうに、ニールが座っている。


ソフィアは入り口でスカートを持ち、挨拶を済ませた。


「殿下、何か御用でしょうか?」


問いかけた直後、ソフィアはニールの斜め向かいに立ち尽くす人陰に気づき、はっとした。
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