冷酷な騎士団長が手放してくれません
――――それから、リアムはずっとアンザム卿の邸でソフィアに寄り添っている。
そのうちに剣士としての腕が上達し、若くして騎士団長にまで昇り詰めた。ソフィアの父であるアンザム卿も、五つ年上の兄のライアンも、リアムには信頼を寄せている。
だが、どんなに忙しかろうとリアムはいつもすぐにソフィアのもとへと駆け付けた。リアムは自分の寝食や団長としての任務より、ソフィアに寄り添うことを最優先している。まるで、そうすることが当然のように。
「リアム、そろそろ終わりにしましょう」
「はい、ソフィア様」
剣の稽古に夢中になっているうちに、気づけば空が赤らみ始めていた。額の汗を拭いながら、ソフィアは芝生の上に腰を降ろす。
夕焼けに染まる湖が、目前で輝いていた。
「すっかり剣の扱いが上手になりましたね」
「そう? リアムに褒められると嬉しいわ。あなたは、お世辞を言わないから」
嬉しそうに、ソフィアは微笑んだ。
「天文学に馬術に剣術。リアムは、伯爵の娘が普通では学べないようなことをたくさん教えてくれたわ」
湖畔の風が、ソフィアの長い髪をたなびかす。澄んだ空気を、ソフィアはすうっと吸い込んだ。
「あなたといるとね、心が解放された気分になるの。伯爵令嬢っていうのは退屈だから……。リアムにこうやって色々なことを教えてもらっている時が、私は一番幸せ」
「そうですか」
淡々とした口調でも、リアムの瞳はブレることなくソフィアを見つめていた。
「ねえ、リアム。次は、何を教えてくれる?」
健気な笑顔とともに繰り出された問いに、リアムはすぐには答えなかった。
しばらくの間、見つめ合う二人。夕方の風が、二人の間を通り抜けていく。
「あなたが望むことなら、何でも」
ようやく、リアムが口を開いた。
するとソフィアは、もう一度自分の忠実な下僕に微笑みかけるのだった。