冷酷な騎士団長が手放してくれません
リンデル嬢がソフィアのドレスの仕立てを請け負ったことは、マルガリータ公爵夫人をはじめ、周知の事実だった。


あんな不自然な破れ方をしたあとなら、どう考えてもリンデル嬢が真っ先に疑われる。


(あれが、リンデル様がクラスタ伯爵に話していた秘策なの……?)


それにしては、やることが浅はかすぎる。彼女は、なぜあんな愚かな計画に踏み切ったのだろう?








ソフィアは、じっとリンデル嬢の背中を見つめた。いつもよりずっと小さく見える背中は、決してソフィアを振り返ろうとはしない。握り締めた拳の震えだけが、窮地に追い込まれた彼女の気持ちを物語っていた。


物事の真相は、奥深くに眠っている。大事なのは、それを見極め視野を広げることだ。


昔、そんな教訓を学んだことがあった。







ああそうだ、とソフィアは思い出す。


リアムが泥棒の汚名を着せられ、処罰を受けた時のことだ。リアムはダイアモンドのネックレスを盗んだ真犯人を咎めるどころか、彼の境遇を思って涙した。


悪いのはあの男ではなく、あの男に盗みをさせる原因を与えた、この国の政策だと言って。






はっと、ソフィアは顔を上げた。


記憶の一場面から、真髄がじわじわと姿を現す。


「私は……」


どうにか、かすれた声を絞り出した。


「何も、傷ついてはおりません」


ニールが、訝しげに片眉を上げる。


「嘘をつくな。深く、傷ついていただろう。護衛に、すがりつくほどに」


「確かに、あの時はショックで立ち直れそうもありませんでした。ですが、今は違います。彼女には、安易に人を信用するなという教えを貰いました。この先、公爵様となられるあなたを支える身としては、それは大事なことです。いつどこに、敵が潜んでいるのか分からないのですから。私は、彼女のおかげで人を見極める力が身に付きました」
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