冷酷な騎士団長が手放してくれません
それから、一週間後のことだった。リンデル嬢がロイセン王国の領土を司る年配の伯爵と婚約したという噂を、ソフィアは聞きつける。


花嫁修業のため、彼女は早々にその伯爵家に移り住んだという。


噂を耳にしたのとほぼ同時期の夜、ソフィアは侍女からリンデル嬢の書いた手紙を受け取った。


薄桃色の封筒に、バラの模様のあしらわれたメッセージカードが一枚きりの、簡素なものだ。


『あなたと、もっと違う形で出会いたかった。そうしたら、素敵なお友達になれていたでしょうに』


強気な性格とは裏腹に、令嬢らしい優美な筆記体だった。その手紙を受け取った時、ソフィアは敵のいなくなった充実感で満たされると同時に、寂しさにも苛まれた。




そして、どうしようもないほどにリアムに会いたくなった。


いつだってそうだ。嬉しい時も、苦しい時も、ソフィアはリアムに会いたくなる。


何かの選択に迷った時も、リアムのことを思い出す。リンデル嬢の処罰を判断した時も、そうだった。リアムの存在はソフィアにとって最も偉大で、体の芯まで浸透している。





あの差出人不明の手紙を出したのも、壺を落としたのも、おそらくリンデル嬢なのだろう。クラスタ伯爵に圧され、リンデル嬢は冷静に頭を使えないほどにまで追い込まれていたのだから。


だから、今のソフィアに身の危険はない。


リアムと約束したように常に侍女を侍らせて歩き回る必要もないし、夜中に鍵をかけて部屋にこもる必要もない。


毎夜、ソフィアの部屋の下で見張りをしているリアムに、これで会うことが出来る。





手紙を机に置くと、ソフィアは喜び勇んでバルコニーに出た。


夜の闇に沈んだ庭園の茂みに、今宵もソフィアを見上げるリアムの金色の髪が見える。


今すぐに、足音を忍ばせながら表に出て、彼に会いに行こうと思った。


だが、突如押し寄せて来た不思議な感情が、ソフィアに歯止めをかける。
< 123 / 191 >

この作品をシェア

pagetop