冷酷な騎士団長が手放してくれません
決闘
◆
秋が深まり、庭園の秋桜が薄紅色の花を咲かせはじめた。空は穏やかな水色で、凪ぐ風には冬の気配を感じる。
ニールは今、応接室の窓から庭を眺めていた。庭では、エメラルドグリーンのドレスに身を包んだソフィアが秋桜を摘んでいる。オフホワイトの大判のショールを羽織り、腰まで伸びた蜂蜜色の髪は斜めに編み込まれていた。
蔵書を多く保管しているこの部屋は、日の光で本が傷まないように、最小限のこの通気窓しかない。細長い上に外から見ると分かりにくい箇所にあるので、ソフィアからはニールの姿は見えないだろう。
白魚のように繊細な指先が、花を一つ一つ見繕いつんでいく様を、ニールは物憂げに眺めていた。
長い睫毛が瞬き、乳白色の肌に陰を落とす。潤いを帯びた桃色の唇は、薄く閉じられていた。
ニールは、今でははっきりと自覚していた。
ソフィアを、愛している。
彼女に翻弄されるたび、その想いは狂おしいまでに膨らんでいく。
だが、ソフィアはいまだニールに心を開いていない。
そのことが、たまらなくもどかしい。
応接室のドアが、コンコンとノックされた。
「殿下。お客様です」
アダムの声だ。
「お通ししろ」
窓の向こうのソフィアに視線を馳せたまま答えれば、間もなくして深緑のマントを羽織ったアダムが姿を現した。アダムは、そのまま入り口の傍に控える。
「殿下、お久しぶりでございます」
続いて能天気な声とともに姿を現したのは、ソフィアの兄のライアンだった。栗色の髪に、愛嬌のある瞳でにこにこと微笑んでいる。妹のような奥ゆかしさはないが、羨ましいほどの開放的な空気が魅力の男だ。
「これは、ライアン殿。よくぞお越しくださいました」
ニールが椅子をすすめれば、ライアンは遠慮なく腰かけた。
「いやあ、いつ見てももの凄い蔵書ですね。この部屋を見ただけで、殿下が知識豊かな人物だということがうかがえる」
屈託のない笑みを浮かべながら、部屋を見渡すライアン。
秋が深まり、庭園の秋桜が薄紅色の花を咲かせはじめた。空は穏やかな水色で、凪ぐ風には冬の気配を感じる。
ニールは今、応接室の窓から庭を眺めていた。庭では、エメラルドグリーンのドレスに身を包んだソフィアが秋桜を摘んでいる。オフホワイトの大判のショールを羽織り、腰まで伸びた蜂蜜色の髪は斜めに編み込まれていた。
蔵書を多く保管しているこの部屋は、日の光で本が傷まないように、最小限のこの通気窓しかない。細長い上に外から見ると分かりにくい箇所にあるので、ソフィアからはニールの姿は見えないだろう。
白魚のように繊細な指先が、花を一つ一つ見繕いつんでいく様を、ニールは物憂げに眺めていた。
長い睫毛が瞬き、乳白色の肌に陰を落とす。潤いを帯びた桃色の唇は、薄く閉じられていた。
ニールは、今でははっきりと自覚していた。
ソフィアを、愛している。
彼女に翻弄されるたび、その想いは狂おしいまでに膨らんでいく。
だが、ソフィアはいまだニールに心を開いていない。
そのことが、たまらなくもどかしい。
応接室のドアが、コンコンとノックされた。
「殿下。お客様です」
アダムの声だ。
「お通ししろ」
窓の向こうのソフィアに視線を馳せたまま答えれば、間もなくして深緑のマントを羽織ったアダムが姿を現した。アダムは、そのまま入り口の傍に控える。
「殿下、お久しぶりでございます」
続いて能天気な声とともに姿を現したのは、ソフィアの兄のライアンだった。栗色の髪に、愛嬌のある瞳でにこにこと微笑んでいる。妹のような奥ゆかしさはないが、羨ましいほどの開放的な空気が魅力の男だ。
「これは、ライアン殿。よくぞお越しくださいました」
ニールが椅子をすすめれば、ライアンは遠慮なく腰かけた。
「いやあ、いつ見てももの凄い蔵書ですね。この部屋を見ただけで、殿下が知識豊かな人物だということがうかがえる」
屈託のない笑みを浮かべながら、部屋を見渡すライアン。