冷酷な騎士団長が手放してくれません
ニールの鋭い視線に気づく気配もなく、ライアンは先を続けた。


「リアムですよ。ソフィアの護衛の」


ライアンはそれから、自らの手の甲を指し示す。


「ソフィアの、右手の傷を見たことがありますか?」


「傷? いや、彼女はいつも手袋をしているので」


「十年前に出来た傷痕が、今も残っているはずです。ソフィアが、リアムを助けた日に出来た傷です」


「……助けたとは?」


ティーカップに口をつけ、皿に敷かれたナプキンに手持ち無沙汰に触れながら、ライアンが言う。









「リエーヌで、十年前に起きたテロがあったでしょう? ハイネル公国側の集団が、リエーヌの中心地に次々と爆薬を投げ入れ、混乱に陥れたあの暴動のことです。あの時、ソフィアはたまたまリエーヌに遊びに行っていたのです。そこで、伐りつけられて殺されそうになっているリアムを見つけた」


ニールは、じっとライアンの言葉に耳を傾ける。


「それを、妹が身を張って助けたのです。そして、手の甲に深い刀傷を負った」


ニールは思い出す。以前、ソフィアの手袋をした右手に口づけをしようとしたことがあった。ソフィアは、反射的にそれを拒絶した。


「それでも、リアムは死にかけていました。どうやら何かしらのきっかけで猛毒が体内に入り込んでいたようで、危ないところだったようです。けれどもソフィア付きの侍女の父親が名のある薬屋で、ソフィアの容態を診に来た際に、リアムが毒に犯されているのを見破り解毒剤を飲ませた。そして、助かったというわけです。そして、目覚めたリアムは、命の恩人であるソフィアに忠誠を誓った」


ニールは思う。少女だったソフィアは、どんな眼差しでリアムを見つめたのだろう。リアムは、どんな視線を返したのだろう。






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