冷酷な騎士団長が手放してくれません
数日後、カダール城では騎士達による親善試合が行われた。


カダール城配下の騎士団と別所属の騎士団による交流試合は、毎年秋に催される恒例行事だ。


その日だけは城が解放され、城内にある闘技場には貴族達だけでなく、庶民も出入りすることが出来る。カダール城の周辺には屋台が並び、ちょっとしたお祭り騒ぎになっていた。


騎士団の館の隣に隣接するように建てられた闘技場は、騎士達が闘う舞台を取り囲むように、ぐるりと石造りの観客席が設けられている。他の観客席とは仕切られた、もっとも見えやすい位置にあるスペースは、この国の君主であるカダール家の観覧席だ。


大勢の観客たちが期待に満ちた声をざわつかせている中、ニールはソフィアとともに特別観覧席に座っていた。カダール公爵とマルガリータ公爵夫人が所用で留守にしているため、今日は代わりである。






それぞれのチームから選抜された七名が舞台に姿を現すと、会場には割れんばかりの歓声が湧き起こる。この親善試合はこの十四名による勝ち抜き戦だ。


胸もとに真珠のあしらわれた薄いブルーのドレスに、羽根つき帽子という出で立ちのソフィアは、やまない歓声の中、ニールの隣でじっと舞台に視線を注いでいた。


「君は戦いが好きだろう。だから喜ぶと思ったんだ」


「ありがとうございます、殿下。とても、楽しみにしております」


ソフィアは嫋やかに微笑んで見せたが、ニールは違和感を感じていた。ソフィアは、ここのところめっきり口数が少なくなった。食欲もないのか、以前にも増して体がほっそりした気がする。


表情の一つ一つに寂しさが見え隠れしているように感じるのは、気のせいではないだろう。ソフィアが変わってしまったのは、あの披露目の夜会のあとからだ。


嫉妬心に駆られたニールがソフィアを襲おうとした時、彼女は震えながら涙を流した。まるで、封じていた感情が解き放たれたかのような、泣き方だった。あの時ニールは罪悪感に駆られたが、同時にどうしようもないほどに彼女に心を奪われている自分に気づいた。


右手を彼女の膝の上に伸ばし、左手に絡める。


ソフィアは、驚いたように顔を上げてニールを見た。


「試合の間、こうしていてもいいか?」







君の心の欠片を、少しでも見せて欲しい。


狂おしいほどの想いを、受け止めて欲しい。






まるでニールの心が空気を介して浸透したかのように、ソフィアは微かに震えた。そして、儚く微笑む。


「ええ。もちろん」
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