冷酷な騎士団長が手放してくれません
「俺は……」


ニールを捉えて離さない、どこまでも深い青の瞳。形の良い唇が、その答えを口にした。


「俺は、ただのソフィア様の下僕に過ぎません」






下僕。その蔑みともとれる言葉の重みが、ニールの胸の奥にズシリと沈んだ。


「ソフィア様に初めて会った時に誓いました。永遠に、彼女につき従うと。ただ、それだけのことでございます」






凛とした声音には、微塵の迷いも感じられなかった。


ニールは、目を見開く。彼の精神の強靭さには尊敬の念を飛び越え、恐怖すら感じた。


たとえソフィアを妻にしようとも、その体を自分のものにしようとも、彼の並外れた想いからは逃れることは出来ない。身分や立場などを飛び越えた壮大な執着心は、永遠にソフィアを掴んで離さないのだろう。






ニールは、生まれて初めての敗北感を味わった。


剣の力量の問題ではない。


この若き騎士には叶わないのだと、心のどこかで認めつつある。





その時だった。


「ハハッ! 滑稽だな!」


突如、けたたましい男の笑い声が観客の中から響いた。
< 137 / 191 >

この作品をシェア

pagetop