冷酷な騎士団長が手放してくれません
「殿下、早く地下道からお逃げください」


息せき切って駆けて来た従者が、ニールを促す。


困惑しつつ、ニールはテロ組織の人員と闘う騎士達を見渡した。


叶うならば、自らもあの中に飛び込んで闘いたい。そのために、幼い頃から剣術に勤しんできたのだ。だが、それが得策でないことをニールはすぐに理解した。


自分は、いずれはこの国の君主となる人間だ。この身に何かあれば、この国に混乱をきたすだろう。それに今は、いち早くソフィアを安全な場所に逃がしたかった。


「分かった、行こう」


ソフィアの肩を抱き、従者に誘導されながら、人でごった返す舞台横の通路を行く。闘技場と城を繋ぐ地下道は、いざという時の避難場所として建設されたものだ。






「ソフィア、心配するな。この国の騎士団は強い。素人の集まりの武装集団など、あっという間に鎮圧するだろう」


「分かっております……」


そう答えつつも、ソフィアは不安げな視線をチラチラと舞台に向けていた。舞台上の随所で、男たちが剣と剣をぶつけ合い、死闘を繰り広げている。


地下道へと続く、石造りの入り口が見えた時のことだった。突如ソフィアが身を竦まし、その場に立ち止まる。その視線は、真っすぐに舞台の一角に向けられていた。


「さあ、早く!」


痺れを切らした従者が、声を張り上げる。


「ソフィア、どうした?」


「殿下、申し訳ございません……」


一瞬だけニールを見つめたソフィアの声は、震えていた。だがそのブラウンの瞳には、確固たる意志を感じた。


ニールが眉根を寄せるとほぼ同時に、ソフィアが腰に差した鞘から彼の剣を抜き取る。


そしてギラリと光るそれを掲げると、ソフィアはドレスを翻し舞台に駆け上がった。


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