冷酷な騎士団長が手放してくれません
「でも、カダール公国よりもロイセン王国の方が大きいじゃない」


ロイセン王国は、この辺り髄一の規模を誇る。ハイネル公国はいつになってもロイセン王国には勝てないし、カダール公国も良好な関係を保つのに必死だ。


「ですが、ロイセン王国の王太子様は、3歳になられたばかり。結婚相手探しなど、まだ先の話です。その点、ニール王子は24歳で、結婚適齢期ですから」


王子だの結婚だの、そんな話はもう飽きた。疲れを感じたソフィアは椅子に腰かけると、リアムのことを思った。



リアムなら、すぐにでも私をここから連れ出してくれるだろう、と。


「リアムは、今どこかしら……」


ソフィアが呟けば、アーニャはみるみる表情を強張らせる。


(しまった)


うっかりリアムの名前を口にしてしまったことを、ソフィアは後悔する。


アーニャは、ソフィアがたびたび勉強を放棄してリアムと共に出かけるのを、快く思っていない。


先日時間を忘れてリアムと剣の稽古に勤しみ、夕暮れになってから帰宅した時は、今までにないほどの剣幕で叱られた。








「今日は、リアムの名前を口にしてはいけません。お嬢様が見染められるかもしれない、大事な晩餐会なのですから」


アーニャの口調は、厳しかった。


「リアムは孤児で、アンザム家に忠誠を誓った騎士です。お嬢様と、一生を添い遂げることは出来ません。身分が違い過ぎます」


「そんなこと、分かっているわよ。そんなつもりで言ったわけじゃないわ」


リアムを、男として見たことはない。彼は、ソフィアの忠実な下僕だ。だから、傍にいるのは当然のことなのだ。ただ、それだけのことなのに。


「もしも騎士と仲良くしているところを見られたら変な噂が立ち、お嬢様の結婚が遠のくかもしれません。ご主人様を、悲しませることになります」


「でも、お父様は私に結婚しろとは言わないわ」


父であるアンザム卿は、他の伯爵のように娘に政略結婚を強要することもなく、ソフィアを自由にしてくれている。そんな父が、ソフィアは大好きだった。


「それは、本音ではございません。ご主人様は言葉にはなさりませんが、本当は誰よりもソフィア様のご結婚を心待ちにしておられるのです……」


アーニャの表情が、ふと曇る。しばらくの間、アーニャは俯き押し黙った。


違和感を感じたソフィアは、「アーニャ?」と首を傾げた。



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