冷酷な騎士団長が手放してくれません
「彼はおそらく、十年前に俺を殺そうとした男です」


悔しそうに、リアムが言った。ソフィアは、はっと目を見開く。


――『あなたが、十年前に彼を助けさえしなければ……』


嵐の中、アダムはソフィアに冷たい眼差しを向けながら、確かにそう言った。


つまり”彼”とはリアムのことであり、アダムの正体はあのリエーヌでのテロ事件の時、衰弱していたリアムを伐ろうとした鉄仮面の男なのだろう。


「どうして……」


そういえば先日の親善試合の時も、鉄仮面を被った男がリアムに襲い掛かっていた。あの男も、まさかアダムなのだろうか?


「どうして、アダムはあなたの命を狙ったの……?」





窓の外で閃光が走り、薄暗い部屋を一瞬だけ光が包む。


青白い光に映し出されたリアムの顔は、身の毛がよだつほどに綺麗だった。濡れた金色の髪のせいで、彼の持ち前の色香が際立っている。


リアムは、ソフィアの問いかけには答えようとはしなかった。彼自身もその答えを分かっていないのか、それとも分かっていて敢えて口にしないのか、読み取るのが難しい。


「俺は……」


ようやく絞り出されたリアムの声は、かすれていた。


「あなたを危険な目に遭わせてしまった自分が情けない……」







伸びて来た手が、遠慮がちにソフィアの頬に触れる。


だがビクッと震えると、その手はすぐに離れていった。


「冷たい。まるで、氷のようだ」


そこでリアムはソフィアの体に視線を這わせ、険しい顔つきになる。


「そんな濡れた服を着ていたら、体が凍えてしまいます。すぐに脱いでください」
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