冷酷な騎士団長が手放してくれません
「もう、大丈夫よ」


そう伝えれば、リアムはようやくこちらに視線を戻した。そして濡れた衣服を脱いで毛布にくるまったソフィアを確認すると、安心したような笑みを浮かべた。


「夜が明ける頃には、雨が止むと思います。それまで、眠っていてください」


ソフィアは、リアムに言われた通り床に横になる。リアムは壁際に移動すると、壁に背を預けるようにして片膝を立てて座り、宙を見据えた。自分自身は、眠らずにソフィアを見守るつもりのようだ。






窓の外では、相変わらず激しい雨音が続いていた。だが、次第に雷は止みつつある。この分だと、リアムの言う通り、明け方には外に出られるかもしれない。


ゆらめく蝋燭の薄明りだけが頼りの丸太小屋の中で、ソフィアは目を閉じようとした。だが、色々なことがあり過ぎて、なかなか寝つくことが出来ない。


ふとリアムを見れば、その体が微かに震えている。ソフィアははっとした。リアムだって、全身ずぶ濡れの状態なのだ。





「リアム。あなたは、寒くないの?」


「俺は、平気です」


「でも、震えてるじゃない」


ソフィアは毛布で体を隠しながら、起き上がった。辛そうなリアムを見ていると、胸が痛くなる。そして、自分がいかに身勝手な行動を取っていたかを思い知った。意を決して、ソフィアは口を開く。


「リアムも、服を脱いでこっちに来て」


するとリアムは、微かに体を震わせたままゆっくりとこちらを見た。


「でも……」


「でも?」


「ソフィア様は、他の男が傍に寄るのが嫌になってしまったようなので」


哀しげな響きの声だった。


おそらくリアムは、先ほど服を脱がせようとした時にソフィアが抵抗したことを言っているのだろう。リルべの湖畔で剣術の稽古に勤しんでいた時は、何の抵抗もなく着替えを手伝わせていたのに。


そのソフィアの心の変化を、リアムは勘違いしているようだった。”他の男”などという言い回しから考えるに、ソフィアはニールに心を奪われたために、他の男を受け付けなくなったと思い込んでいるようだ。
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