冷酷な騎士団長が手放してくれません
二人はしばらくの間、手を繋いだまま横になっていた。


息遣いから、互いにまだ眠っていないことだけは分かった。それでも、どちらも話をしようとはしなかった。


窓の向こうからは、相変わらず雨風の吹き荒れる音が聞こえている。オレンジ色の蝋燭が揺らめき、簡素な木の床に、一体化する二人の影を映し出していた。






リアムの体の震えは、やがて止まった。


リアムの手は、温かかった。


恐怖も不安も緊張もやがて溶け出し、リアムの手の感触だけがソフィアの心を支配する。細くとも、重厚な剣を握り締める男らしい手。幾度も、ソフィアの頬を撫でてくれた優しい手。


場違いなほどの安らぎを覚えたソフィアは、いつしか子供の頃のことを思い出していた。





「ねえ、リアム。覚えてる?」


「何をですか?」


「リアムが泥棒の汚名を着せられた時、こうやって手を繋いで眠ったこと。あの時のこと、思い出さない?」


ソフィアが十歳の頃、客人のダイヤモンドのネックレスを盗んだ騎士を庇い、リアムがアンザム邸の地下にある牢獄に入れられたことがあった。あの時、ソフィアは夜に地下に忍び込み、鉄格子越しにリアムと手を握り合って眠った。


あの時も、恐怖と不安で胸が押しつぶされそうだった。それでもリアムの手の温もりを感じているだけで、気持ちが安らいだ。その状況に、今の状況が重なった。


微かに、リアムが笑う。


「俺は何度も帰ってくださいと言ったのに、ソフィア様が言うことを聞かなかったんですよね」


まるで、子供をからかうような口調だった。リアムは、時々こうやって年上めいた笑みを見せることがある。実際リアムの方が三歳年上なのだが、ソフィアは小馬鹿にされているようで面白くない。





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