冷酷な騎士団長が手放してくれません
「あ……っ」


思わず漏れた、自分のものではないような声。ソフィアは恥ずかしさに身をよじるが、リアムは愛しげに耳もとに唇を寄せるのだった。


「俺がいつも、どんな気持ちであなたに触れていたと思いますか? 無防備な姿のあなたの着替えを手伝う時、この白く滑らかな肌を目にした時……」


色香を孕んだ声が、ぞくぞくと耳の奥をくすぐる。


「決して俺の気持ちに気づくことのないあなたを、どんな気持ちで見つめていたと思いますか?」





ソフィアは、目を見開いた。リアムの切なげな声が尾を引いて、胸の奥に残っている。


(リアムも、私を……)


主人と下僕。


その奇妙な関係性は二人を近づけ、同時に引き離してもいた。


耳もとを逸れたリアムの唇が、ソフィアの首筋を滑り降りていく。


優しい刺激が肌を流れ、心を満たしていった。


冷えていた互いの体が、甘い熱を帯びていく。


気づけばソフィアは、肩を震わせて泣いていた。


ソフィアの鎖骨にキスを落としたところで顔を上げ、リアムが我に返ったような顔を見せる。


「申し訳ございません、つい……」


表情を曇らすリアムを見て、ソフィアはまた泣きそうになった。


触れられたくないからではない。触れられたくて、泣いているのに。


そんな複雑な想いは、リアムには伝わらない。伝わっては、いけない。





リアムはその夜、それ以上ソフィアには触れてこなかった。


けれども一晩中、二人は抱き合って眠った。


毛布の中で指と指を絡めるように繋がれた手は、まるで吸着したように離れることはなかった。





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