冷酷な騎士団長が手放してくれません
すると、アダムが毅然とした態度を崩さないまま口を開いた。


「私も、殿下のことを心より信頼しておりました」


「今さら、そんなことを言っても遅い」


「殿下は、一つ勘違いをしております」


アダムの発言に、ニールは眉根を寄せた。この期に及んで、この裏切り者は何を言い出すつもりなのだろう?


「私は、確かに以前はハイデル公国側の密偵としてロイセン王国に潜んでおりました。ですが、カダール公国に務める以前に、縁は切れております。この度のことは、以前の仲間に声を掛け、私の独断でやったことに過ぎません」


「独断で、なぜあんなことをする必要がある?」


親善試合に武装勢力を送り込んだのも、婚約者であるソフィアの命を狙ったのも、独断だと言い切るつもりなのだろうか? 全ては、ハイデル公国を守るために。ニールの胸の内に、ふつふつと怒りが込み上げてきた。






アダムは、すぐにはニールの問いかけに応えようとはしなかった。冷たい石の床に視線を落とし、何かを考えるように押し黙る。長らくの沈黙のあと、ようやくアダムは口を開いた。



「殿下は、ロイセン王国に昔から伝わる予言のことをご存知でしょうか?」


急な話の展開に、ニールは眉間に皺を寄せた。


「ご存知ないでしょうね。これは、ロイセン王宮内でもごく一部の人間にしか知られていない、秘密事項ですから」


淡々と、アダムは不可思議な話の先を続ける。


「『黄金の王太子再び生まれし時、その血とともに、王朝は滅びの道を歩みたもうけり』……。ロイセン王は、何代にもわたって代々黒髪の家系でした。ですが突然変異で金色の髪の王太子が生まれ、その王太子が殺された時、ロイセン王国は滅びるという意味の予言です」

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