冷酷な騎士団長が手放してくれません
「金色の髪……?」
「かの有名な獅子王、カイル王太子も金色の髪を持って生まれました。そのため彼は災いの王太子として、王宮では忌み嫌われて成長した。ですが、予言の王太子は彼のことではなかったのです。カイル王太子は国を亡ぼすどころか、小国だったロイセン王国をその手腕で世界にも類を見ない大国に発展させた」
鉄格子の向こうでじっとニールを見据えるアダムの瞳が、鈍く光った。
「けれども獅子王の三代あとに、再び金色の髪の王太子が生まれます。彼こそが災いの王太子だとロイセン王宮の幹部たちは確信し、彼の命を守るため、城の地下に幽閉して育てることにした。その存在を、国民にも公表せず」
ドクン、とニールの胸が鳴った。アレクサンドル・ベルの書いた『仮面の王子』の内容が、頭の中を駆け巡る。
「十年前、ハイデル公国の秘密組織にいた私に、その王太子を殺せという指令がくだりました。ロイセン王国に伝わる予言は、絶対的なもの。その暗殺計画は間違いなくうまくいくと、ハイデル公国側の誰もが確信していました。幽閉された王太子が殺され、ロイセン王国が滅びるのはいわば運命なのですから。そして私達は、王都リエーヌに爆薬を投げ入れ、王宮が混乱した隙に幽閉された王太子を見つけ出し、毒薬を飲ませた」
ですが、とそこでアダムは視線を下げた。
「王太子にとどめを刺す直前に、思いもよらない邪魔者が入ったのです。私は自分の身を守るため、王太子にとどめをささずにその場をあとにしました。遅かれ早かれ猛毒が全身を巡り、王太子は死ぬ運命にありましたから。案の定、王太子の消息はそこで途切れます。私はやがてハイデル公国を抜け出し、カダール公国に身を寄せることになりました」
アダムの瞳が、真っすぐにニールに向けられた。
「――そして、あろうことか、死んだはずの王太子にそっくりな騎士に再会したのです」
ニールは、自分の呼吸が小刻みになるのを感じた。勘のよいニールは、アダムの話の先を既に予想出来ていた。まさかという驚きと、やはりという納得の気持ちが、胸の奥に混在している。
ソフィアの披露目の夜会の際、涙を流していアレクサンドル・ベルの老いた顔が、脳裏を過った。
「かの有名な獅子王、カイル王太子も金色の髪を持って生まれました。そのため彼は災いの王太子として、王宮では忌み嫌われて成長した。ですが、予言の王太子は彼のことではなかったのです。カイル王太子は国を亡ぼすどころか、小国だったロイセン王国をその手腕で世界にも類を見ない大国に発展させた」
鉄格子の向こうでじっとニールを見据えるアダムの瞳が、鈍く光った。
「けれども獅子王の三代あとに、再び金色の髪の王太子が生まれます。彼こそが災いの王太子だとロイセン王宮の幹部たちは確信し、彼の命を守るため、城の地下に幽閉して育てることにした。その存在を、国民にも公表せず」
ドクン、とニールの胸が鳴った。アレクサンドル・ベルの書いた『仮面の王子』の内容が、頭の中を駆け巡る。
「十年前、ハイデル公国の秘密組織にいた私に、その王太子を殺せという指令がくだりました。ロイセン王国に伝わる予言は、絶対的なもの。その暗殺計画は間違いなくうまくいくと、ハイデル公国側の誰もが確信していました。幽閉された王太子が殺され、ロイセン王国が滅びるのはいわば運命なのですから。そして私達は、王都リエーヌに爆薬を投げ入れ、王宮が混乱した隙に幽閉された王太子を見つけ出し、毒薬を飲ませた」
ですが、とそこでアダムは視線を下げた。
「王太子にとどめを刺す直前に、思いもよらない邪魔者が入ったのです。私は自分の身を守るため、王太子にとどめをささずにその場をあとにしました。遅かれ早かれ猛毒が全身を巡り、王太子は死ぬ運命にありましたから。案の定、王太子の消息はそこで途切れます。私はやがてハイデル公国を抜け出し、カダール公国に身を寄せることになりました」
アダムの瞳が、真っすぐにニールに向けられた。
「――そして、あろうことか、死んだはずの王太子にそっくりな騎士に再会したのです」
ニールは、自分の呼吸が小刻みになるのを感じた。勘のよいニールは、アダムの話の先を既に予想出来ていた。まさかという驚きと、やはりという納得の気持ちが、胸の奥に混在している。
ソフィアの披露目の夜会の際、涙を流していアレクサンドル・ベルの老いた顔が、脳裏を過った。