冷酷な騎士団長が手放してくれません
「初めは、他人の空似かと思いました。ですが胸の内の不安は拭えず、姑息な手で彼とあなたの婚約者を城から追い出そうと画策しました。けれども、それがただの他人の空似ではないことを知り、最終的な手段に出ることを決意したのです。死んだはずの王太子が生きていたことがハイデル公国側に知られては、私の命が危ないですから」


先日、ライアンが書斎を訪れ、ニールにソフィアとリアムの出会いを話して聞かせた。ライアンは、十年前猛毒に犯されていたリアムを、薬屋であったソフィアの侍女の父親が救ったと話した。


その時、書斎の隅に控えていたアダムは、全てを聞いていたのだろう。そして、数日後の親善試合の際に、行動に出た。あの時リアムを襲った鉄仮面の男は、混乱に乗じて彼の命を奪おうとしたアダムだったのだ。







「それで、今度はソフィアを狙ったのか……」


ニールには、アダムの考えが手に取るように読めた。アダムは、アンザム卿の危篤をでっち上げることによって嵐の中にソフィアを誘いはしたが、目的はソフィアの命ではなかった。絶対にソフィアを追って来るであろう、リアムの命が狙いだったのだ。


リアムのソフィアへの執着を、アダムも見抜いていたのだ。アダムは、ソフィアの存在こそがリアムの弱点だと踏んだのだろう。







「こんなはずでは、なかったのだ……」


アダムは、話し疲れたように頭を垂れた。長年抱えて来た秘密をニールに話した途端に、脱力感が襲ったのだろう。


「災いの王太子はあの時死に、やがてロイセン王朝は滅ぶはずだった。あの予言書は、絶対的なものなのだ。それなのに、どうして……」


がっくりと項垂れるアダムを、ニールは何も言わずに眺めていた。


絶対的な運命を打ち破った、強大な力とは何だろう。


聡明な彼には、その答えが見えていた。


そして、自分がこの先どうするべきも、決意を固めつつあった。









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