冷酷な騎士団長が手放してくれません
春を過ぎ、リルべが最も美しくなる季節がまた廻って来た。


その日もソフィアは一人湖畔に赴き、時を過ごしていた。





湖のエメラルドグリーンの水面では、はっとするほどに真っ白な水連が花を咲かせ、トンボが優雅に宙を舞っている。


初夏の湖畔の風は、水気を含んだ草の芳香を運び、太陽の恵みを受けた木々をざわめかせていた。


ソフィアは草原に生えたシロツメクサを集め、誰にあげるでもない花冠を作っていた。


指先は器用な方だから、花冠はあっという間に仕上がる。自分の脇に幾重にも重ねられた花冠を見て、我ながら暇だわ、と小さく笑ってしまった。





ふと、目を閉じる。


瞼の裏に浮かんだのは、愛しい騎士の姿だった。


幾度も彼と共に過ごした湖畔に佇めば、目を閉じるだけで、まるですぐ隣に彼がいるように思えて仕方がない。


体の奥には、愛し合った時の彼の気配がまだ残っている。


花冠を作り過ぎたと言うと、リアムは何と答えるだろう?


『あなたの作るものなら、なんでも美しい』


きっと、そう言うのではないだろうか。


そしてあの神秘的なブルーの瞳を細めて、優しく微笑むだろう。


ソフィアは目を閉じたまま、中空に右手を差し出した。


今にも、リアムが唇を寄せる気配がした。








記憶の中のリアムの姿が確かな実体を伴って、ソフィアの目前に迫る。


「リアム……」


思わず彼の名前を口にしたが、目を開けても、そこにリアムはいなかった。


湖畔の風に、緑の草原が涼やかに揺れているだけだ。


「馬鹿ね……」


ソフィアの自嘲的な呟きは、空気に溶けて虚しく消えた。



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